残雪期の安達太良山(福島県)
- 2022.05.19
- 登山紀行

■2022年3月21日(月祝)~22日(火) ■天候:曇り時々雪・霧 |
【Day1】あだたら高原スキー場 奥岳登山口~勢至平~くろがね小屋 |
【Day2】くろがね小屋~峰の辻~安達太良山山頂~薬師岳山頂~奥岳登山口 |
源泉かけ流しの山小屋は、噂どおり最高だった!
奥岳登山口から「くろがね小屋」をめざして登山スタート。
どんより曇った空でテンションが上がらないけれど、
やっと予約が取れた人気の山小屋に泊まれるのが楽しみだ。

締まった雪の道を踏みしめながら歩くのは実に気持ちがいいと実感する。
アイゼンが雪を捉えたときのキュッキュッという音がとても心地よく、
夏山にはない雪山登山の愉しみのひとつと言えるのではないだろうか。
2時間ほど歩くと山小屋が見えてきた。なかなかお洒落な外観で期待が高まる。


シンプルな造りでこじんまりした山小屋だ。照明デザインもノスタルジックだし、
木の風合いもレトロな印象で、とても落ち着く感じ。
1階は食堂と休憩スペース、売店、トイレ、温泉がある。2階が宿泊スペース。
いまはコロナ禍なので、寝具は持参しなくてはならない。




部屋でのんびりした後は、源泉かけ流しの温泉へ。
白濁した硫黄臭のあるお湯は、ぬめりがあり肌に良さそう。
ここは岳温泉の源泉から一番近い温泉らしい。
50℃くらいありそうな湯船に浸かると、
成分がカラダに入り込んでいくような感覚に思考が停止する。
薄め目を開けると窓の外は雪景色。
標高1,350mの山小屋でこんな贅沢ができるとは、なんとも幸せだ。
夕食は、名物のくろがねカレーだ。
見た目はシンプルだが、ひと口食べると、じゅわーっと旨味が口の中に広がる。
最高に旨いじゃないか。地酒と合わせるのが通とのことなので、
そのスタイルを真似したらハマってしまった。
隣りの登山客ともお話しさせていただき、あっちの山、こっちの山と
色々な山行の体験をお聞きすることができ、とても愉しい時間を過ごすことができた。
やはり人とのふれあいは山旅の愉しさを豊かにしてくれると感じた。

安達太良山、ホワイトアウトの恐怖
朝、小屋の窓から見る景色はどんよりしていて遠くがよく見えない。
次々に小屋を出発する登山者たちを見送り、山頂へ向かうべきか迷っていると、
小屋主がこう言った。「この山域が初めてなら行かない方がいい」
見通しがよくなったと思ったら、5分もたたないうちに霧が出て何も見えなくなる。
このまま下山すべきか悩んでいると、
「3人の先行者が山頂へ向かったからトレースがあると思うよ。
一定間隔で竹竿が立っているから、視界が悪くなければ、それを目印に行けばいい」
との小屋主の話に、山頂へ行くことを決心した。
トレースが無くなって、周りが見えなくなったら引き返してきます。と告げ、スタートした。

峰の辻と呼ばれる広場のような場所まで約40分。
トレースはあるものの、視界が悪く右も左も真っ白で何も見えない。
前方の視界はせいぜい5mくらいという状況で不安になってくる。
竹竿も近くまで寄らないと確認できず、トレースだけが頼りだった。
前にも後ろにも登山者はいない。雲の中にいるような感覚で、
このまま進むべきか悩みながら歩を進めていた。
峰の辻まで来ると、少し視界がよくなっていたが、トレースは消えていた。
しばらく呆然と辺りを見回していると、竹竿が1本立っているのが見えた。
とりあえずそこまで行ってみると、次の竹竿が見えた。
そんな調子で登っていくと、豆粒のような先行者の姿を確認した。
もう大丈夫だ! 心底そう思い、見知らぬ先行者に感謝した。




先行者の姿と竹竿、そして再び現れたトレースを頼りに
一歩一歩しっかり踏みしめながら登っていった。
そして、ついに山頂へ着いた!
見渡す限り雲の中の世界だが、風はなく
安達太良山は僕たちを優しく受け入れてくれた。

先行者3名と言葉を交わし、トレースがあって
どれだけ心強かったか、感謝の気持ちを伝えた。
毎年この時期に来ている熟練者さんだが、こんなに風のない日は珍しいそうだ。
残念ながら山頂からの景色は見えなかったけれど、
登頂した喜びを分かち合える交流っていいなと思った。
山頂標識の上が「乳首」と呼ばれる山頂だ。
急斜面で滑る恐れがあったので、今回は無理をせずに断念した。




下山途中の薬師岳山頂近くには、有名な標識がある。
[ この上の空がほんとの空です ]
詩人であり彫刻家の高村光太郎の詩集「智恵子抄」に収録された
「あどけない話」に由来している。
東京暮らしに疲れた妻・智恵子が郷里への想いを呟いたとされる。
(中略)
阿多多羅山の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

結果オーライで無事に下山できてよかった。
夏山としては初心者向けの安達太良山だけれど、
ガスで視界がなくなると、どれだけ怖いことになるかを痛感した山旅だった。
くろがね小屋は温泉もカレーも最高だったし、
他の登山者たちとの交流は、貴重な旅の宝となった。
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